私の過去の男達が私の前にきちんと列になり、
私の体のパーツを一つずつ引きちぎっては去っていく。
何を今更こいつらが、とも思ったし、
私の指やら耳やらを、何に使うのだろうと冷静に考えたりもしたが、
ちっともわからないままだった。
痛みも殆ど感じずに、腕も足も無くなって、
ああこれは不便だわと思っていると最後は父親だった。
もう顔も覚えていない父親は、私の首に手をかけ、首だけを引きちぎろうとした。
頭を引きぬくのなら分かるけれど、ダルマ落としでもないのに、
それは無理だろうと、言おうとしてももう歯も舌もない。
そういえば目もないのになぜ父親と分かるのだろう。
首に食い込むあのやたらに太い親指が肉を突き破る。
自分が肉の塊だったことを再認識する。
薄皮一枚の下は、ただの肉なのだ。
何を偉そうに、あたかも自分が何者かであるかのように、
私は今まで生きてきたのだろうか。
父が頷き力を込める。
なぜだか急に痛みが私を襲う。
頬を冷たい涙がつたう。
あとからあとから溢れる涙が、ばしゃばしゃと音を立てて滴る。
土砂降りの音で目を覚まして夢だと気づいた。
思わず自分の体を触ると、当たり前のように全てくっついていた。
畳の縁まで雨が降りこんでいる。
痺れるような疲労感の残る体を無理やり起こして窓を閉めようとしたら、
ベランダで一匹の猫が死んでいた。私がたまに餌をやる、白地に黒ぶちの猫だ。
白地、といってもほとんど黄ばんでいたのだが、
雨のせいか死んでいるせいか、さらに汚らしくなっていた。
頭のおかしい人間がたくさん住んでいる町だから、
誰かにいたずらに殺されたのだろう。
夜道を歩くと犯される、と噂されるような町だ。
実際私も、ツナ缶の蓋で脅されて汚い性器を咥えさせられたことがあった。
あんなものでも凶器になるし、頬に残った傷は今だに消えない。
食べられなかっただけマシかもしれないね、と、声をかけて私は
その、ブチ、と呼んでも反応したことがない名もない猫を部屋に入れて
机の上に乗せてみた。
ペットでも飼っているような気になったのは一瞬で、
やっぱりどうにも汚らしいので、
再びベランダに出て洗濯機に入れて漂白剤を一瓶丸々入れて、
一応ソフトコースで回してみた。
雨はその速度も強さも増していて、全ての景色をぼんやりと滲ませる。
洗濯機のスイッチを入れるだけでびしょびしょになった私は、
ポケットからくしゃくしゃのタバコを取り出して、
しけったライターを何度かすってどうにか火をつけた。
猫がきれいになったら、今日は一緒に寝てみようかと考えながら、
雨が嵐になっていくのに誘われて、私はベランダによじ登る。
タバコは湿気った味を残して火が消えた。
私も、猫も、タバコさえも、その温度を失う深夜3時。
嵐は私を、オズのドロシーのように、どこかに連れていってもくれない。