日々の泡

冬の花火

ピンク色のマフラーをぐるぐる巻きにした君は、
冬の花火ほど贅沢なものはないねと小さく笑った。
その横顔は時折明るく照らされ、低い鼻も、薄い唇も、
僕との喧嘩による寝不足で荒れた肌も、全て、ただ美しく輝く。

どうしようもなく退廃していくこの町が、
町起こしにと、旅館のそれぞれに出費を強制して
反感の声の中こぎつけた冬の花火は予想外に人を呼び、
ハワイ風にトチ狂った照明の海岸を、
金で買った椰子の木が並ぶ下を、
無駄に人で埋めていた。

僕等が住む狭苦しい団地とはまったく違う世界。
あの六畳半の世界で僕等は、愛について語り、語ることに疲れ、
優しさに飽き、信じていたものを零した。
それは誰が悪いわけでもなく、
時間と積み重なった生活がそうさせたのであって、
だからこそ僕等は諦める事ができたのだと思う。

子どもがいなかったのが幸いと君は言った。
僕は、
子どもがいたらもっと違う今だったのではないかと思ったけれど、
それを口にだすのはあまりにもあんまりだから、言わない。

花火は今や佳境で、沢山の出店に並ぶ人、
そこから香る肉や野菜の焼ける匂いの中、
大振りの柳のように火花はしだれ、落ち、粒になって、海に弾けた。
その度にわき上がる嬌声は、嘘で固めた娼婦の喘ぎ声のように泡と弾ける。

張りつめた冷たい空気にそぐわない、
灼熱の火花は数えられない程に落ちていく。

冬の海はどこまでも黒く暗く深く遠く、全てを飲み込むようで、拒む。

拒まれて蒸発する火花。点が、光っては消える、
僕等はそれをぼんやりと見ている。

ホタルを見たことがないはずの君が、
ホタルのようだね、と呟いた。
僕はそうだね、と返事をした。


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甲斐博和
2011.06.15