日々の泡

夕暮れの動物園

虎を見に来たのだけれど、
レストランでホットケーキを1時間かけて食べたせいか、
入る予定のなかった子ども用動物触れ合いコーナーにいりびたったせいか、
虎のいるジャングルの檻にはもうなにもなかった。
打ち捨てられたような肉片と、大量の糞。
それだけが、ずいぶんと傾いた西日の褪せた赤にぼんやりと照らされていた。

君はただ打ちひしがれて、その何もない檻の前でしゃがみこんだまま。

君は動物の注目を浴びたくて、といって、
やたらに派手なキミドリ色のスカートを履いていたけれど、
小学生に後ろ指を指される事はあっても、
殆どの動物にそっぽを向かれていた。
どの動物にも丁寧に挨拶をしていたが、多分怖がられていたのだろう。
そんなことはおかまいなしに、君は檻やガラスにへばりつき、
飽きる事も無くじいっと動物を見たり、動くのを真似したりを繰り返した。
やたらにくちばしの大きな鳥のくちばしが開くまで待ち続け、
まったく動かない濡れたような色のカバの真似をし、
どこか悲しそうな一頭きりのキリンを可哀そうと言い、
のしのしと動き続けるシロクマを怖いといった。

動物というもののその殆どが、何を考えているのかなんて、
僕には想像もつかないし、分かりようがない。
本能で生きているのだろうけれど、会話している気もする。
それは、言葉にしなくても分かってよと言う、
君にちょっと似ている。

でも僕は人の気持ちを計るのが下手くそで
今目の前の君を立ち直らせることも出来ない。
空っぽの檻と空っぽの僕に挟まれて君は動かず
夕暮れはその色が濃くなって
虎の唸り声すら聞こえなくて
ただ、子供たちの
帰りたくないと駄々をこねる泣き声だけが
うっすらと聞こえては
次々と姿を見せなくなる動物達のように
消えていくのだった。

http://www.toca.jp/story/post_393.html
甲斐博和
2011.06.13