虎を見に来たのだけれど、
レストランでホットケーキを1時間かけて食べたせいか、
入る予定のなかった子ども用動物触れ合いコーナーにいりびたったせいか、
虎のいるジャングルの檻にはもうなにもなかった。
打ち捨てられたような肉片と、大量の糞。
それだけが、ずいぶんと傾いた西日の褪せた赤にぼんやりと照らされていた。
君はただ打ちひしがれて、その何もない檻の前でしゃがみこんだまま。
君は動物の注目を浴びたくて、といって、
やたらに派手なキミドリ色のスカートを履いていたけれど、
小学生に後ろ指を指される事はあっても、
殆どの動物にそっぽを向かれていた。
どの動物にも丁寧に挨拶をしていたが、多分怖がられていたのだろう。
そんなことはおかまいなしに、君は檻やガラスにへばりつき、
飽きる事も無くじいっと動物を見たり、動くのを真似したりを繰り返した。
やたらにくちばしの大きな鳥のくちばしが開くまで待ち続け、
まったく動かない濡れたような色のカバの真似をし、
どこか悲しそうな一頭きりのキリンを可哀そうと言い、
のしのしと動き続けるシロクマを怖いといった。
動物というもののその殆どが、何を考えているのかなんて、
僕には想像もつかないし、分かりようがない。
本能で生きているのだろうけれど、会話している気もする。
それは、言葉にしなくても分かってよと言う、
君にちょっと似ている。
でも僕は人の気持ちを計るのが下手くそで
今目の前の君を立ち直らせることも出来ない。
空っぽの檻と空っぽの僕に挟まれて君は動かず
夕暮れはその色が濃くなって
虎の唸り声すら聞こえなくて
ただ、子供たちの
帰りたくないと駄々をこねる泣き声だけが
うっすらと聞こえては
次々と姿を見せなくなる動物達のように
消えていくのだった。