夜、雨が泣き止まず午前2時、私はベランダで、煙草に火がつかない。
広い川の向こうでは、同じような団地が建ち並び、そのあかりは整然。
部屋ではあなたがひとり、コップを一つずつ、叩き壊している。
私と暮らしたなにかを一つ残らず消したいといって彼は
私と彼とで買ったものを残らず壊しているのだ。
テレビの中から死んだ、焦げ付いた、黒い鼠が出て来たところで私は
彼を手伝うのをやめてベランダ。夜はいつも暗いからたまに、
ここで立っているとなんだか宙ぶらりんのようなそれはつまり
ああ思い出せない私を好きと言ってくれたのは誰だったっけ。
あの、金をくれた、スーツの男は私のあばたを、でこぼこを、
触って、落ち着くと、言ってくれたのに
私がその金じゃ足りないと言ったから
あばたが紫色になるまで殴った。
その嬉しそうな、汗とよだれと、涙にまみれた顔は、
彼と買ったウサギの形をしたランプに照らされ、
あたたかな橙色で、優しかった頃の父親に似ていた。
あの人はだれだったけアレはいつだったっけとても暑かった、
多分雨も降っていた、どんよりと重い空気で身動きがとれなくて
わたしはされるがまま。
いつだったか川を流れた女装した老人のように
手も足も投げ出し、はだけたスカートで、赤。
血も服も粘膜も、赤くて、赤くて。
何処かの部屋で子どもが泣いた。
母親が叫んだ。
殴打の音が響く。響く。響く。
ベランダの手すりをぎゅうっと握りしめる。
なんでなんでもがこんなに、うまくいかずに、きしむんだろう。
振り返る。
同じ部屋。
ガラスの破片。
兎の顔は抉られ
その縁は虹色。
このままここで寝てしまえば明日の朝にはきっと全部終わって、
破片だらけの壊れたものだらけのゴミの部屋ができあがって
あなたはいなくて私はひとり。
それでいいのだとも思うけれどでもここはとても宙ぶらりんだから寝られない。
川沿いの道を救急車が通った。
赤いランプが
川に映ってゆらゆらと揺れて消える。
あなたの笑顔のようなのに、それはただのまっくろな闇。