よもやま

うたかたに、つれづれと、湿疹

そのストレスはどうやらピークに達したようで
右脇腹に湿疹ができた。

湿疹なんて出来るのは初めてだったので、
人々に見せて歩く。

毛虫かなにかじゃないかということで落ち着いたので安堵。
そのまま本番を迎える。

波瀾万丈、という、ごてごてとした漢字がすんなりしっくりくる日々だった。
役者の変更、スタッフとのせめぎあい、膨大な小道具や大道具。

シンプルな舞台、と言われることの多い「錆花」の舞台ではあったが、
見えないところがものすごく細かいのだった。

それは例えば、ホテルのスタッフのバッチだったり、
ホテルの棒状の鍵にもちゃんと「ホテル新世界」と入っていたり。

目が悪い人にはなんとも嬉しくないサービスだけれど、
目をこらして見てもそこに生活、というリアリティを浮かび上がらせるために、
必死の金策や行動が隠れていたのだった。

端的にいうともろもろがもろもろで、
一役者として、というよりも、
パニック状態のマネージャーとして小屋に入った印象の強い
今回の現場ではあったが、
小屋に入ってからは目覚ましい発展があった。

それもひとえに、
こちらの無謀な希望や要望に必死に答えてくれたスタッフさんや
熱海合宿や20時間稽古などを経て尚ついてきてくれた役者陣が
うまいぐあいに有機的に絡み合ったからなのだと思う。

もちろん、全てが完璧というわけではないが、
稽古時間もまちまちではあったし、
急な変更点も多々あったけれど、
「ホテル新世界」という場の空気は、
劇場という虚構の空間にも関わらず、
かなり高いレベルで再現していたことを肌で感じることが出来た。

そして一役者として印象に残っているのは、
尊敬する役者でもある石川油との絡みで、
楽日の夜の回、
言いようのないほどの、
こんな擬音しか出ないのだが、
その場所で、その登場人物として、
グワっと感情と感覚と風景とが広がってそれを共有できるかんじ。
初体験だった。

名作漫画バガボンドの佐々木小次郎が、
剣で語り合うあのかんじというとチープなのかもしれないが、
喋らずとも会話。
喋ると怒濤のように広がる感覚。

お客様がどう感じたのかはわからないが
「なんかうまく言えないけどよかった」
とう言葉に集約されるのだと思うけれど、
それでも、一役者として、
漠然と描いていた見てみたい風景というか瞬間が
初めて訪れた。

稽古嫌いを地で行く僕ではあるけれど、
積み重なったものはこんな風に実を結ぶ事があるのかと実感。
もう一回できるかと言われてもできない、
それを人はたまたまと呼ぶのかもしれない。
でも、それは多分、
五年、という歳月を石川油と舞台の上で共有して初めて発生した、
ある幸せな結果だったのだと思う。

もちろんそれに満足したわけでも安堵したわけでもないし
やりたいこともやりたりないことも山積みだけれど、
とりあえず舞台をやるには
たくさん充電しないと腰があがらないなというくらい
疲弊もしたし出し尽くした四月の花の頃でございました。

よくもわるくも
小津安二郎とデビットリンチとコーエン兄弟と
ラースフォントリアと中上健次なんかと
からめて評されポツドールなんかとちょっと比べられ
まあ妥当っちゃ妥当かなとも思いつつ、結局どこにも似てないのでは?
と小さな自分と問答したりもしたのですが、
とにもかくにも
川上未映子さんのコメントのおかげもあって
過去最高のお客さまにご来場いただき、
またあたたかいお言葉をたくさんいただき、
おおきなトラブルもなく、
「錆花」は無事に終了いたしました。

関係者各位の皆様、またご来場いただきましたお客様に、
心から感謝の意を、ネット上ではありますが示させていただきます。

ほんとうにありがとうございました。
これからも地味に活動を続けますので、
どうぞ見守っていてください。

自慰行為をしているつもりはないので、
見て下さる方がいて初めて表現とは成り立つものだと信じておりますので、
どうか僕たちのことをお忘れなきよう、お願いいたします。

桜が散ってしまったように
ものごとにはいつも終わりがありますが
僕が生きている限りは
みゃくみゃくと、TOCA*はなにかを作り続けます。

そんな真摯な気持とは裏腹に、
脇腹の湿疹は広がり届かない背中の真ん中まで痒くなり
今日皮膚科に行ったらことごとく閉まっていて
痒いけどかいちゃだめと自分にいい聞かせつつもう一人の僕でもって掻いたり。

雨はいつも僕を憂鬱にするのだけれど、
カユミが痛みにかわってどうにも悶絶。

全てが開放されたように感じた楽日の夜はまがいもので
この湿疹は芝居の傷跡のように広がっている。

同時に
観劇してくださったお客様にも
紙で指を切ったようなじんわりとした痛みが
ほのかに蕾を膨らませる生きることへの幸福感と共に
残っていたらなあと夢想するのでありました。

http://www.toca.jp/days/post_20.html
甲斐博和
2008.04.10